フォーモ/東京真中
「おいてかれるみたいでヤだった」
取調室でラフな格好の青年が項垂れている。青年の前でしかめ面をした警官は、これで20人目だな、と言わんばかりに調書を取っている同僚と顔を合わせた。
路上で踊ることが流行って早数年。片端からしょっ引いてようやく収まって来たかのように思われていたが、つい先日どこかで再燃したようで、横断歩道の上やら車道やら至るところで人が跳ねていた。
「最初に見たのは電車の中でした。仲間内の遊びがエスカレートしただけなんです」
そう泣いていた女子高生グループの一人は、地球の形をしたお菓子を大量に持っていた。警官としてはまだまだ新米の後輩にどういうものなのか聞いてみたが、なんか蛍光色の液体が出てくるんスよ、と興味なさそうに言っていた。
「運が良ければ誰かが見つけてくれて、人生が変わるんですよ」
どこか疲れたように笑いながら、男は頭を搔いていた。
「食べ物系観ててダンス動画にハマって。いつの間にか自分でも撮ってました」
罰が悪そうに顔を背けながら、金髪の少年はぶっきらぼうに言った。
一体どんな風に流行るのか。トレンドというものはいつも読めない。新しいものが話題をさらっては消えていき、かと思ったら何年も何十年も前のものが当時よりも人気を博すこともある。
「おいしいか? んー……」
「映えますよ、流行ってるし」
「待って! 往かないで往かないで!」
「本音くらい言わせてくださいよ」
「お兄さんも心任せに踊ってごらんよ! 楽しいよ!」
同調なのか変な宗教なのか。どうしようもない波のようなそれに呑まれながら、流行りになぞらってはあやかってスターのように踊っている。右に倣って上手くやってるつもりで。
右、左、右、左。
思いもよらないことでいきなり叩かれて、歩調が狂って、いつしか自分の色なんてなくなって。やりたくないことをやっても認められなくて。異端だと世界から拒絶されているみたいで。
純粋な心の持ち主は些細なことで感動しては裏側に走っている悪意や数値に水を差されてかなしくなって、孤独を背負って泣いている。
くたくたで、色がなくなって、真っ暗の中。
笑顔のままぼろぼろで干からびてしまったのは自分だけではなくて、むしろ星の数ほどいるのだと思い知る。
「どの世界にも色がある。僕は今あるどんな世界にも馴染めなかった」
くたびれたスーツを着て、男は熱に浮かされたみたいにそう言いながら、あからさまな愛想笑いをしている。
「豪勢な生活なんて望んでないです。ただ、楽しく生きていたくて。誰かに自慢できるような華があるわけでもない、どうしようもない人生が、いつか終わるのかなって夢を見て。はしゃいでみたかっただけなんです。なのに、いつの間にか、生きるには楽しくしていなければならないという強迫観念に代わって。誰に頼まれてもいないのに勝手に擦り切れて」
男の目は警官の方を向いているようで、遠い何かを見ている。
「どう足掻いても自分の色は変わらないし、屍の山の一部になんてなりたくない。爆ぜるように巫山戯てやりたかった。涙を呑んでぼろぼろになった僕等でも、自分の人生のためくらいには、きっとやり返せるから」
だから笑って踊りました。
その熱で数万人を色づけた彼は、爽やかにそう言った。