猫
何だかもう、むしゃくしゃしたので、海に来た。
中古で買った軽自動車から降りて息をすると、肺の中で夏と冬とが混じったような不思議な心地がした。
海といえば夏を思い出すけれど、冬の海も好きだ。一年中変わらない波の音は心を落ち着けてくれる。
防波堤に腰を下ろす。目を閉じれば、ざ、と頭の中の雑音を攫ってもらえているような気がして落ち着いた。
しばらくすると、からからから、と何かが転がってきて、手に当たったので目を開けた。誰が飲んだのかはわからない。コーンスープの缶だった。
ポイ捨ては良くないなぁと思いながら、風に持っていかれてしまわないよう捕まえた。当然ながら中身は空で、底に溜まりがちなあの粒たちを余さず飲んだとしたなら相当な手練だなぁと変に感心した。
にゃあ。
突然背後から声がして、危うく防波堤から転げ落ちるところだった。振り向けば、三毛猫がちょこんと座ってこちらを見ていた。
そういえば猫飼いたいって言ってた頃もあったなぁ、と、じっと見つめていたら、あちらの方から近づいてきた。えっ、何、もしかして脈ありなのか?と内心どきどきしながら近づいてくるお猫様をそのまま観察していたけれど、お猫様の興味の対象は僕ではなかった。
お猫様の鋭い右フックにより、僕の手から空き缶が離れる。からから、と防波堤に落ちたところにすかさず左ストレートを叩き込んだお猫様は、そのままドリブルするように空き缶を転がしながら物凄い速さで走り去っていった。
振られてしまったなぁ、と笑う。瑣末なことにむしゃくしゃしていた自分が、途端に小さく見えた。
「帰ろう」
そうしなさい、とばかりに、冴えた汐風が頬を撫でていった。