頓首頓首、死罪死罪
お父さま、お母さま。
この度は、私の式にいらしてくださってありがとう。
お二人が私を生んでくださったから、私の人生は始まりました。
私が彼を好きだと言ったとき、お父さまは機嫌を悪くして、煙草を吸いに行きましたね。お母さまは、「幼い恋をしている」と、何かにつけて、ついでのように、何度も何度もおっしゃいました。
思い返せば、お二人は、私が好きだと言ったものは、全部全部お嫌いでしたね。
気に入らなかったのですよね。自分たちが丹精込めて作ったレールを無視されるのが、耐えられなかったのでしょう。
端から見れば、きっと、恵まれた人生でした。
食事も、住む場所も、本だって玩具だって何不自由なく与えていただいていましたし、習い事だってたくさん通わせていただきました。
でも、どうしてでしょう。思い出すのは、苦しいことばかりなのです。
何度、声が出なくなればいいと思ったかわかりません。そちらのほうがきっと、お二人にとっても都合がよかったですよね。生意気に言い返すことも無く、自分たちの希望通りに、うなずくだけのお人形さんができていたのに。
いつか、彼を好きになった私を、気が狂ったのだとおっしゃっていましたね。お二人が思っている以上に、私の耳は良かったみたいです。本当にそう思っていらっしゃったのなら、大きな間違いです。彼を好きになれたから、私は狂わずにいられたのです。彼を好きになれたから、私の人生を私の物にすることができました。
ごめんなさい。愛される人になれなくて。
かわいらしい性格になれなくて。
あなたたちに嫌われるような人間に育ってしまって。
わたしはあなたたちの人形なのに。あなたたちの理想を皮膚の後ろに詰め込まれたはりぼてなのに、その通りになれなくてごめんなさい。
大学を出て、よい企業に就職して、結婚をして、子どもを産んで。
そうなることを望まれていたのはわかっていました。
けれど、こんなに醜い私に誰かを踏み込ませるなんて、かわいそうです。
それに、あなたたちが思っているより少しだけたくさん、私はつかれてしまいました。ですから、最初で最後の、最もひどい裏切りで、結ばせていただきます。
おさらいしましょう。
お父さま、お母さま。
本日は私の式に来てくださってありがとう。
怒っているでしょうか、泣いているでしょうか。
そのお顔を直接拝見できないことだけが心残りです。
私は彼を愛しつづけます。誰に何を言われようと。
来世でまたご縁があれば、どうか他人でありますように。
それでは、お先に。