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大手劇団の劇場前。売店も兼ねたアイスクリーム屋、年季の入った小さなキッチンカーの中が、僕に許された居場所だった。
パンフレット、ハンカチ、アイスクリーム。買いに来た人たちに、「楽しんできてね」と笑う。彼らの背を見送る度に、開けたカウンターの向こう側にいる演者や客の眩しさを思い知った。舞台に立つことも、純粋な気持ちでそれを観ることも出来ない中途半端な自分が情けなくて見ていられない。拍動をやめない世界のなかで、自分だけが止まっているようだった。
いくら立地が良いといえど、公演のない日に客はほとんど来ない。そんな日は、行く当てもなくほっつき歩くことが通例だった。
死に場所を探していた。いや、厳密に言うならば、死んだ自分の幻を弔ってくれる存在を、心の底で求めていた。徘徊していた自分の足が、どうしてその小劇場に入っていったのか分からない。ただ、小さな舞台の上でそれでも笑う彼を見て、頭の中を覆い尽くしていた霧がさっと晴れた気がした。
もし、彼があの舞台の上で、自分の屍が沈むあの舞台の上で踊ってくれたなら。一瞬の間に視界が開けた。彼がこの不恰好な未練を捨て去らせてくれるという確信が、みっともなく穴が空いた心を埋めてくれた。神という存在は、運命というものは本当に存在するのだと思った。
できる限り彼がいる小劇場へ通って、なけなしの給料のほとんどを注ぎ込んだ。友人のようなものなんだから受け取れないと彼は言ったが、無理矢理ねじ込んで帰ることを繰り返した。僕にとって彼は友人ではなく、神が引き合わせてくれた救世主だったから。
かつて自分を贔屓にして、愛してくれた人たちも、こんな気持ちだったのだろうかと思った。いや、きっとどこか違っていた。自分がただ無邪気に感謝を伝えるだけで許してくれるほど綺麗な人たちばかりではなかったし、それに気づけないほどの子どもでもなかった。地に墜ちた自分に救いの手を向ける人などいなかったのが、何よりの証左だ。羽が抜けて翼も折れた自分に価値を見い出してくれる人などいなかった。
何度も何度も手紙を書いた。自分にとって賞賛は便箋ではなく紙幣だったから、どうすればいいのかわからなくて、何度も何度も書き直した。自分がしてもらいたかったことを、彼に無理矢理押しつけているだけの、最低な人間だという自覚はあったがやめられなかった。彼を通して、血みどろで笑っていたあの頃の自分を許そうとしていた。
翌日の公演のパンフレットを卸すため向かった倉庫で、劇団員のオーディションをするというビラの束を見つけた。この道を目指す専門学校の学生のみに配られる予定だったということをうっすら思い出しながら一枚抜き取った。誰よりも参加すべき人間がいる。現に彼は今、僕の前に立っていた。
「いらっしゃいませ」
いつも通りに笑ってみれば、わずかに震えた声が返ってきた。
「・・・・・・どうして」
どうして嘘を、どうしてどうして今まで、黙っていたのか。
続く言葉はなかったが、いくらでも予想は出来た。
「当然のことをしただけだよ」
小劇場で心を躍らせてくれた、あの一瞬。
貴方が棺桶に蓋をしてくれるとわかったから、僕は生まれ変われたんだ。
「アイスでも食べよう おすすめはチョコレートだよ」