十二時二〇分、晴天。
カウンターの前に座ってシャッターを上げる。
“お待たせいたしました。只今より、午後の業務を開始いたします”
アナウンスが終わったことをモニターで確認し、ドアのロックを解除する。
“この方たち、入ってくるんですかね”
ニコが防犯カメラの映像を指しながら言った。
入区管理局の入り口には見たこともないほどの人だかりが出来ている。
「どうだろうね」
入区希望者が来る気配もないので、なんとなくモニターの映像をテレビ番組に切り替える。人気を博していた歌手が死んだとのニュースが大々的に報じられていた。
ギターケースに詰められていたバラバラ死体、そしてきちんとした手続きを踏んで深安良区に踏み込んだ彼の遺体をどう扱うか。深安良区が関わっているということもあり、世論の体現者とでも言いたげなコメンテーター同士のお喋りと罵り合いは白熱していた。
ギターケースに詰められていたのは誰だ。身元を開示しろ。彼とはどういう関係だった。再生医療で復活させるべき。死ぬのは逃げだ。卑怯者。罪を償わせろ。どうして深安良区に。
しかし、深安良区に足を踏み入れて死んだ以上、二人が帰ってくることはない。今はそういう決まりだ。何をしたところで彼らに何かが届くことなどないのに、彼らの死は数多の憶測や言葉で穢され続ける。特に有名人の彼の死は、他者にとって恰好のアクセサリーだった。
あらゆるメディアの中で、第三者が厚顔無恥に無遠慮に、彼らだけの止まった世界を踏み荒らしている。
いや、踏み荒らせていると勘違いしている。
“・・・・・・人は勝手です”
モニターの中で、青年だけは、ひどく爽やかに笑っていた。