カウンターの前に座り、シャッターを上げる。
“お待たせいたしました。只今より、午後の業務を開始いたします”
アナウンスが終わったことをモニターで確認し、ドアのロックを解除する。
“受付番号122番の方、番号札と必要書類をお持ちの上、27番入区管理室へどうぞ”
今日も確認作業をこなしていく。
と言っても、忙しいのはいつも十五時頃までで、それ以降は業務終了時刻までニコと雑談をするのが常だった。
担当している27番入区管理室は緊急性の低い安楽死希望者の対応をするところであり、他の管理室が忙しい時間帯にその補助をするのが主の、いわば予備のような存在なので仕方の無いことだ。
不治の病など緊急性の高い安楽死希望者の対応窓口である1から10番の入区管理室は特に忙しいらしい。人生は往来古今色々なものに例えられているが、あえて舟に例えるならば深安良区の入区管理局は波止場だと、三日連続で1番窓口を体験した先輩は憔悴しきった顔で酒を呷っていた。
生きることに絶望した者、興味を失った者が辿り着く場所。確かに人生が行く当てもなくだだっ広い海原を漂う舟のようなものだと言うなら、深安良区の入区管理局は船着き場、波止場と言って差し支えないだろう。
実際、東京湾に浮かぶ小さな人工島とそれに繋がる橋の上にある関所、という立地も相俟って「波止場」という俗称も広がってきているらしい。入区管理局から滅多に出られない私はニュースでしか世間の動きを知ることはできないが。
暇になってきたな、という私の波形を読んだらしい。いつも通り、ニコのお小言が始まる。
“今日もカップラーメンでしたね”
モニターに食事の記録と栄養価、体重、心拍数などのグラフが表示され、無言で責められる。
「いいだろ、経済的だし効率的なんだから」
“こんな優秀なAIにカップラーメンタイマーをさせておきながら効率的とおっしゃるんですか? 私に涙腺があったら今頃ここが沈むくらい泣いていますよ”
「相変わらず自信の塊だな」
“私はカップラーメンの時間を測るために作られたわけじゃないのに・・・・・・みなさんの・・・・・・しあわせな人生をお支えするために生まれてきたのに・・・・・・どうして・・・・・・心電図みたいな音を鳴らしてカップラーメンを・・・・・・うっ・・・・・・”
「ニコのおかげで私はいつもおいしいカップ麺をいただけてるよ。ありがとう」
“感謝は不要です! そういうことじゃないんです!”
「まぁまぁ、いつか役に立つって」
“砂時計で充分でしょう?! あっ! そういうことですか?! お前なんて砂時計と一緒だよNICOTIANAってことですか?!”
「いやいやそういうわけじゃなくて」
“うう・・・・・・もういいです・・・・・・明日は出前注文しておきますから・・・・・・”
「私の給料から天引きされるだろそれ。やめなさい」
“天丼と牛丼どっちがいいですか・・・・・・”
「どうしても頼みたいならもうそんなに胃が若くないのでうどんとかそういうあっさりしたのをお願いします」
十二時二〇分、雨天。
カウンターの前に座り、シャッターを上げる。
出前で届いたカツ丼がまだ胃の中で暴れている。
午前と変わらず、ガラス窓の向こう側は黒に近い灰色がべったりと上半分を覆い尽くしていて、下半分を占める波は荒れていた。
“お待たせいたしました。只今より、午後の業務を開始いたします”
ニコのアナウンスが終わったのを確認し、ドアのロックを解除する。
“受付番号126番の方、番号札と必要書類をお持ちの上、27番入区管理室へどうぞ”
今日もいつも通りだ。